早稲田大学図書館所蔵「おくのほそ道 明和版 文庫31 A0151」を当ブログでは「明和W」と表記しています。早稲田の書誌によると、この本は雲英末雄旧蔵とのことです。
故・雲英末雄氏のご研究と文献蒐集のご努力に敬意を表します。
「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社」によると、明和版は、A・B・C・Dの4種に分類されます。しかし明和Wは、この4種とは異なる部分が存在します。そこで、雲英末雄に倣って解題を試みようと思います。
おくのほそ道 明和W 早稲田大学図書館 文庫31 A0151
書型 枡型本。見返しの部分に墨書きで「(縦五寸五分/横四寸七分)」と書かれている。早稲田大学図書館の書誌には、17.8×14.0cm とある。しかし、明和Wの掲載画像は(400✕337pixel)
で、比率はおおよそ、100:84 であるが、早稲田大学図書館書誌の(17.8✕14.0cm)では、おおよそ、100:79
となり比率がまるで違ってしまう。見返しの書き込みの「5寸5分(16.665cm)×4寸7分(14.241cm) 」の比率はおおよそ、100:85
となる。
表記検証のため引用 おくのほそ道 明和W 表紙
明和W 早稲田大学図書館所蔵「おくのほそ道 明和版 文庫31 A0151」
(画像をクリックすると大きな画像が出ます)
上記は、画像編集ソフトで定規の画像を移動させ、本の大きさを測った画像。
早稲田大学書誌 17.8×14.0cm
定規の画像 16.9-17cm×14.2-14.3cm
表紙 砥粉色地に信夫散し文。(雲英末雄の分類による「明和版B」と同じ表紙)
・雲英末雄は、この文様を「杉菜散し文」としているが、「表紙文様集成 第25号別冊 国文学研究資料館」には、 奥細道菅菰抄を例として「信夫散し」とある。
「信夫」は、おくのほそ道の「しのぶもぢ摺」の「しのぶ草(信夫草)(忍草)」のことであるとも言われる。また、着物の柄などでは、「羊歯文」と呼ばれることもある。
信夫文字摺之記
・この石の周りの植物が、シノブというシダ植物である。
信夫草
題簽 中央 剥落により無表記。
丁付 計57丁半。55丁の素龍の跋から、柱に「一」(~「四」)とある。
・ 見返しの部分に墨書きで、「(本文五十三枚/奥書一枚/附録四枚)」とある。
跋 1. 無署名の跋 (54a-54b.02)
2. 元禄七年初夏 素龍書(跋) (附録1-2)(55a-55b.02)
3. 元禄八乙亥九月十二日門人去来拝(跋) (附録1-3)(55b.03-57b.03)
4. 明和七年寅年十月翁忌の日 蝶夢書之(跋) (附録3-4)(57b.04-58a)
文字削除の部分の確認のため引用
55a.03 (素龍の跋)「伏て村肝(本ノマゝ)を刻む」
明和I・明和W
刊年書肆 54丁裏(54b.06)は、元禄版や明和Iに見られる「京寺町通二条上ル町/井筒屋庄兵衛板」が削除され、「洛陽蕉門書林 井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に差し替えられている。なお書肆名の前に「奥細道拾遺 全一冊 出来/奥細道菅菰抄 全二冊 出来/同附禄 全一冊 追テ 出来」の宣伝広告を示す(54b.03-05)。刊年は誌されていない。
特異な割付のため引用 54b-55a
上から、元禄K・明和I・明和W・寛政K
・元禄Kでは、54丁の無署名跋の後に「京寺町通二条上ル町/井筒屋庄兵衛板」と書肆情報が示され奥付として本を締めくくっている。
・明和Iでは、元禄版54丁の後に、素龍・去来・蝶夢の跋を付け足したしているため、54丁の元禄版の書肆情報はそのまま残っている。
・明和Wは、54丁の元禄版の書肆情報を削除して、新たな書肆情報に差し替えられている。「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社」の明和版Dの解題によれば、明和版Dも書肆情報は削除されているが、明和Wのように、新たな書肆情報に差し替えられることはなく、新たな書肆情報は後表紙に置かれ奥付として本を締めくくっているようだ。
雲英末雄の明和A・B・C・Dの分類と明和Wについて
・「明和版A」は、愛県大の明和I・立命館の明和R・慶応の明和G に対応する。
・「明和版B」は、北大の明和Hに対応する。明和版Aとほぼ同じであるが、明和Wと同様に、55b.03 (素龍の跋)「村肝(本ノマゝ)を」が削除されている。(明和H該当箇所)
・「明和版C」は未見。雲英末雄の解題によると、新たな書肆情報は後表紙にはめこまれている。
・「明和版D」は未見。雲英末雄の解題によると、 旧い元禄版の書肆情報が削除されている。新たな書肆情報は後表紙にはめこまれている。
・「明和W」は、旧い元禄版の書肆情報が削除され、新たな書肆情報に差し替えられている。以上より、明和Wは、明和版A・B・C・Dとは違った要素があり第5種本と言える。
・次に明和Wの出版時期についてだが、明和版Cの後か、明和版Dの後かで次の二つが考えられる。
1.明和版Cの後の場合 明和Wを刷る際に、旧い元禄版の書肆情報が削除され、明和版Cの後表紙にあった新しい書肆情報に差し替えられて出版される。その後、明和版Dが出版される際に、新しい書肆情報が再び後表紙に戻され、旧い元禄版の書肆情報は明和Wの時点で削除されているので空白となり出版された。
2.明和版Dの後の場合 明和版Dを刷る際に、旧い元禄版の書肆情報が削除される。その後、明和Wが出版される際に、明和版Dの後表紙にあった新しい書肆情報を、旧い書肆情報が削除されて空白になっていたところに置かえて印刷された。
2番の方がシンプルではあるが、元禄版の書肆情報をわざわざ削除する動機が見当たらない。1番とするならば、本来「おくのほそ道」は無署名の跋までが本体であり、素龍・去来・蝶夢の跋は付録であるので、書肆情報は旧来通り無署名跋のすぐ後に置くべきである。というような動機は一応考えられる。その後、明和版Dを刷る際に、やはり書肆情報は本の最後にあった方がわかりやすいということで、再度、後表紙に戻された。ということもありうるように思われる。
国文学研究資料館 元禄K/ 寛政K/ 別版K/ 其角堂蔵版(永機)/ 奥の細道
愛知県立大学図書館 明和I/ 寛政I/ 奥細道菅菰抄I
立命館大学図書館 元禄R/ 明和R/ 寛政R/ おくのほそみち
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G/ 明和G 後ろから表示される。
早稲田大学図書館 元禄A 元禄B 元禄C/ 明和W / 寛政A 寛政B/
北海道大学図書館 明和H
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社
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2018.8.6 更新
水音凛香・速水敬五
おくのほそ道の原書(素龍筆 井筒屋本)や与謝蕪村の奥の細道を気軽に読んでみようというブログです。
変体仮名もくずし字もどんどん読もう。
芭蕉自筆本・曽良本・柿衛本・早大本・昔安本などの違いも見ていきたいと思います。
Let's read OKU-NO HOSOMICHI in the original.
与謝蕪村 奥の細道 上巻
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12-13. 14. 15. 16-17. 18. 1.序章 001 002 003.03
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3.草加 005 006.05
4.室の八島 006.06 007.05
5.仏五左衛門 007.06 008 009.01
6.日光 009.02 010 011 012.03
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