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当ブログでは「03f明和N」と分類表記しています。
「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社」では、明和版は、A・B・C・Dの4種類に分類されています。当ブログではこれに「03e明和W」を加え5種と分類していました。しかし明和Nは、この5種と異なる部分が存在します。以下に明和Nの解題を試みようと思います。
おくのほそ道 03f明和N 名古屋大学図書館 岡谷文庫-799
書型 枡形本。名大書誌 16.8×14.2cm 定規の画像 16.9-17×14.3-14.4cm
表紙 砥粉色地に信夫散し文。
題簽 中央無辺 「おくのほそ道」。
丁付 計58丁半。55丁の素龍の跋から、柱に「一」(~「四」) とある。58丁の蝶夢の跋の裏は余白になっており、新たに半丁の刊記が加えられ後表紙はりこめられている。(つまり、58bが余白で、59aが刊記になっておりその裏の59bは後表紙に貼り付けられている)
・59bの余白下に書き込み有り。或いは最後を示す符丁か? 59b「後コフ」?
跋 1.無署名の跋 (54a-54b)
2.元禄七年初夏 素龍書(跋) (1-2)(55a-55b.02)
3.元禄八乙亥九月十二日 門人去来拝(跋) (1-3)(55b-57b)
4.明和七年寅年十月翁忌の日 蝶夢書之(跋) (3-4)(57b-58a)
刊年書肆
54丁裏(54b) は、元禄版や明和版A・B・Cに見られる「京寺町通二条上ル町/井筒屋庄兵衛板」が削除され、「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に差し替えられている。(図1参照)
更に、59丁表(59a)には「奥細道拾遺 全一冊 出来/奥細道菅菰抄 全二冊 出来/同附禄 全一冊 追テ 出来」の宣伝広告と「洛陽蕉門書林 井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」書肆名が、奥付としてとある。(図2参照)
備考 明和版Aの素龍の跋の3行目は「伏て村肝(本ノマゝ)を刻む」とあるが、明和版B以降の版では「村肝(本ノマゝ)」の部分が削除され空白になっている。なお、寛政版ではこの部分が明和版Aとは異なる字体で彫られている。
図1
図1 引用元 02元禄K 03a明和I 03e明和W 03f明和N
・02元禄Kでは、54bの無署名跋の後に「京寺町通二条上ル町/井筒屋庄兵衛板」と書肆情報が示され奥付として本を締めくくっている。
・03a明和Iでは、元禄版54丁の後に、素龍・去来・蝶夢の跋を付け足したしているため、54bの元禄版の書肆情報はそのまま残っている。また、55aの素龍の跋3行目は「伏て村肝(本ノマゝ)を刻む」とある。
・03e明和Wでは、54bの元禄版の書肆情報が削除され、新たな書肆情報に差し替えられている。また、55aの素龍跋3行目の「村肝(本ノマゝ)を」は削除され空白になっている。
・03f明和Nでは、54bの元禄版の書肆情報が削除され、新たに「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に差し替えられている。また、55aの素龍跋3行目の「村肝(本ノマゝ)を」は削除され空白になっている。
図2
図2 引用元 03c明和T 03e明和W 03f明和N 04a寛政I
・03c明和Tは本の最後を締めくくる奥付として書肆情報が書かれている。(*注参照)
・03e明和Wでは書肆情報は本の最後ではなく、無著名の跋の後に置かれている。
・03f明和Nは本の最後を締めくくる奥付として書誌情報が書かれている。
・04a寛政Iは本の最後を締めくくる奥付として書肆情報が書かれている。
図3
・赤で囲んだ書肆名について次に比べてみる
図4
・両者を比べると、ほぼ同じである。細かく見ると多少の違いはあるが、摺りの違いであるようにも見える。しかし、同じ版木から両者を摺るというようなことがあるだろうか? (54)の無署名跋を摺り、乾くのを待ち、(59a)の書肆名のみに墨を付け無署名跋の空白の部分に摺る。その後、(59a)全体を別な紙に摺る。というような煩雑なことをするだろうか? それよりは、版木を利用してコピーを作り(54b)に入木をしたと考えるのが妥当ではないだろうか。
雲英末雄の明和A・B・C・Dの分類と明和Wと明和Nについて
・「明和版A」は、愛県大の明和I・立命館の明和R・慶応の明和G に対応する。
・「明和版B」は、北大の明和Hに対応する。明和版Aとほぼ同じであるが、明和Wと同様に、55b.03 (素龍の跋)「村肝(本ノマゝ)を」が削除されている。(明和H該当箇所)
・「明和版C」は国会図書館の明和Tに対応する。新たに「奥細道拾遺 全一冊 出来/奥細道菅菰抄 全二冊 出来/同附禄 全一冊 追テ 出来」の宣伝広告と「洛陽蕉門書林 井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」書肆名が後表紙にはめこめられている。(*注参照)
・「明和版D」は未見。雲英末雄の解題によると、54bの無署名跋の後にあった「京寺町通二条上ル町/井筒屋庄兵衛板」という元禄版の書肆情報が削除されている。新たな書肆情報は後表紙にはりこめられている。
・「明和版E」は、雲英末雄の分類にはないが、早大の明和Wに対応する。54bの無著名の跋の後にあった元禄版の書肆情報が削除され、新たな書肆情報に差し替えられている。
・「明和N」は、54bの無著名の跋の後にあった元禄版の書肆情報が削除され、「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に差し替えられている。更に宣伝広告と書肆名は後表紙にはりこめられている。以上より、明和Nは、明和版A・B・C・D・Eとは違った要素があり第6種本と言える。これを明和版Fとする。
・明和版Fの出版時期については、不確定要素が多く、明和版C以降であるということしか今のろころ言えない。明和版C以降である理由は後ほど詳しくみてみたいと思う。
*注
・03c明和Tは、「素龍本 おくのほそ道 野村宗朔編 大倉廣文堂」に収められている断片である。緒言に次のようにある。
本文一頁の前の原表紙写真から一〇八頁と一〇九頁の間の裏表紙写真まで素龍の本の一を原寸に複製し、一〇九頁から一一六頁までは他の一本に蝶夢が添へた素龍・去来・蝶夢の跋とその本の奥附であります。本文の部分については、当ブログでは「02元禄T」と分類しているものである。
「蝶夢が添へた素龍・去来・蝶夢の跋とその本の奥附」については「他の一本」と記されているだけであるが、その特徴と、「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄」の明和版C の解題の備考に、「明和版Cの伝本は、他に野村宗朔氏蔵本がある。」と書かれていることから、これを明和版Cと断定して、03c明和T と分類表記する。
2019.11.23更新