2018年7月2日月曜日

おくのほそ道 寛政版の跋文・書肆の底本について

1.寛政版の「宣伝広告・書肆名」も明和版のかぶせ彫りであることについて

現在、一般に「おくのほそ道」の寛政版は、「明和版から無署名の跋を除き、すべてをかぶせ彫りにしたもの」とされているようですが、しかし、寛政版の書肆名と宣伝広告についても、明和版からのかぶせ彫であるということについては顧慮されていないようです。

例えば、「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄 勉誠社」の書肆名と広告についての記述は次のようになっています。
肝年書肆 跋四丁裏に「寛政元歳酉仲秋再板/洛陽蕉門書林・・・・省略」とある。なお書肆名の前に「奥細道拾遺・・・・・省略」と宣伝広告を出すのは、明和版CDと同じ形式である。p121
このように、書肆名については、明和版との類似性の言及はなく、宣伝広告についても明和版と同じ形式である。というだけで、かぶせ彫であるとは考えられていないようです。

そこでまず、書肆名と宣伝広告の明和版と寛政版との関係について見てみたいと思います。




画像引用元:明和W.54b  寛政I.57b

注:画像のフォーマットは以下の通り
明和W:横:12.7cm 換算96dpi:481pixel/縦:16.8cm 換算 96dpi:635pixel
寛政I:横:12.7cm 換算96dpi:481pixel/縦:16.7cm 換算 96dpi:631pixel
このフォーマットの比率を変えずに縮小やトリミングをしている。

・明和Wは明和版Eに属し、寛政Iは寛政版Aに属する。(版本の分類は、暫定的な注参照)
・赤の囲い部分と、青の囲いの部分を次に並べる。


左:明和W 右:寛政I
「洛陽蕉門林 井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」
・両者ともに文字の大きさも間隔もほぼ同じである。


左:明和W 右:寛政I

 奥細道拾遺  全一冊出来
 奥細道菅菰抄 全二冊出来
 同 付 録  全一冊(追ラ)出来
・両者ともに文字の大きさも間隔もほぼ同じである。
・次に明和Wの文字を透過して、寛政Iに重ねてみる。


明和Wを透過して寛政Iに重ねた合成画像

・両者はほぼ一致する。よって、寛政Iは明和版の被せ彫りであるということが言える。
明和版で、宣伝広告と洛陽蕉門林の書肆名のある版は、明和版C・D・Eであるので、この三種のうちのいずれかが、被せ彫の底本に使われたことになる。(版本の分類は、暫定的な注参照)

2.寛政版は明和版Aのかぶせ彫りではないことについて

明和B以降の素龍の跋では、「伏て村肝を刻む」の「村肝を」が空白になっているのは周知のことだが、この部分を寛政版も併せて見てみたい。



・明和版Aに属する明和I:「伏て村肝(本のマゝ)を刻む」55a.03(付録1a)
・明和版Bに属する明和H:「伏て□□□刻む」55a.03(付録1a)
・寛政版Aに属する寛政I:「伏て村肝を刻む」54a.03(付録1a)
(版本の分類は、暫定的な注参照)

画像引用元 明和I 明和H 寛政I

明和Iの「村肝を」と寛政Iの「村肝を」を比べると字体が明らかに違う。このことから、寛政版は明和版Aの被せ彫ではないということが言える。

先の「寛政版の宣伝広告と書肆名は明和版のかぶせ彫りである。」ということと合わせると、寛政版の「跋文(素龍・去来・蝶夢)及び、宣伝広告・書肆名」は、明和版C・D・Eの何れかを底本にしているという結論となる。

寛政版の本文については明和版ではなく元禄版が用いられている可能性が高い。このことについては、(寛政版の底本について参照)

参考文献
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社 元禄A
国会図書館デジタルコレクション 元禄T(底本)/  蕪村.巻T
国文学研究資料館 元禄K寛政K芭門七書K永機K奥の細道
駒沢大学図書館 元禄KM
相愛大学 春曙文庫 元禄SI
北海道大学図書館 明和H
宮内庁書陵部 別版S.有丁
酒田市立光丘文庫 寛政M写本M
新潟大学附属図書館 佐野文庫 寛政NS
岐阜大学図書館 寛政GF
愛知教育大学附属図書館 模写IK寛政IK
金城学院大学図書館 寛政KS
大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 寛政O
奈良大学図書館 寛政N1寛政N2
八戸市立図書館 模写HA註.HA
函館市中央図書館 香雪.交山HK
愛知県立大学図書館  明和I寛政I註.菅菰I 
立命館大学図書館 元禄R明和R寛政Rおくのほそみち 
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G1 元禄G2明和G別版G.桜寿軒
早稲田大学図書館  元禄A 元禄B 元禄C明和W寛政W1 寛政W2
別版A.有丁 別版B.有丁別版C.桜寿軒
半化坊W百家交筆W香雪.交山W永機W蕉門七書W芭蕉翁文集W 
模写A 写本W2 写本W3 写本W4  惟足W(吉川惟足)
註.洗心抄W奥の細道
西尾市岩瀬文庫 註.通解NO
弘前市立図書館 蕉門七書HR(写)
福井県文書館 模写FI
富山県立図書館 半化坊TY 

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2018.7.2
水音凛香・速水敬五

与謝蕪村 奥の細道 上巻
与謝蕪村 奥の細道 下巻
12-13. 14. 15. 16-17. 18.


表紙 000 
1.序章 001 002 003.03
2.旅立 003.03 004 
3.草加 005 006.05
4.室の八島 006.06 007.05
5.仏五左衛門 007.06 008 009.01
6.日光 009.02 010 011 012.03
7.那須 012.04 013 014.06
8.黒羽 014.07 015 016.07
9.雲巌寺 016.08 017 018 19.07
10.殺生石・遊行柳 19.08 020 021.02
11.白河の関 021.03 022.06
12.須賀川 022.07 023 024 025.05
13.あさか山 025.06 026.06
14.しのぶの里 026.06 027.07
15.佐藤庄司が旧跡 027.08 028 029.07
16.飯塚 029.07 030 031.08
17.笠島 031.08 032 033.03
18.武隈 033.04 034 035.01
19.宮城野 035.02 036 037.04
20.壺の碑 037.05 038 039 040.03
21.末の松山 040.04 041 042.04
22.塩竈 042.04 043 044.04
23.松島 044.05 045 046 047 048 049.05
24.石巻 049.06 050 051.07
25.平泉 051.08 052
053 054 055.01
26.尿前の関 055.02 056 057 058 059.01
27.尾花沢 059.02 060.03
28.立石寺 060.04 061
29.最上川 062