01A 芭蕉直筆本 (野坡本)(中尾本)
芭蕉自筆奥の細道 上野 洋三 桜井 武次郎 編 岩波書店
松尾芭蕉の自筆の書とされていますが異論もあるようです。 「野坡本」とも呼ばれるのは、芭蕉の弟子の野坡がこの本を所持していたためです。更に「中尾本」とも呼ばれることもあります。それは現在、中尾氏が所持しているからです。
・壷碑(つぼのいしぶみ)の場面の本文には”貼紙”がしてあります。そしてその”貼紙の下” に「鎮守苻将軍陸奥守朝狩」との記述があります。(上記 芭蕉直筆奥の細道 本文篇 p87参照)
多賀城碑の「藤原恵美朝臣朝獦」の「獦(狩)」の文字が解読されるのは、芭蕉が亡くなった後のことです。この観点からすると、この本は18世紀以降に作成された可能性が高いと言えます。つまり芭蕉の自筆ではない可能性が高いということになります。
多賀城碑と壷碑と日本総国風土記について 参照
松尾芭蕉の壷碑と多賀城碑について 参照
01B1 曽良本 (天理本)
天理図書館善本叢書〈和書之部 第10巻〉芭蕉紀行文集
曽良が所持していたために、「曽良本」と呼ばれています。本文の筆者は、曽良筆説、芭蕉筆説、利牛筆説などがあります。 現在は天理大学が所蔵しているので「天理本」とも呼ばれることもあります。
・本文には、見せ消ちや書き込みなど添削の跡が随所にみられ、それらを誰が入れたのかについても諸説あるようですが、この書が「奥の細道」の決定稿であり、以後の諸本の親本となっています。
01B2 河西本 (曽良本の写し)
河西本 おくのほそ道 村松友次 笠間書院
河西氏所有の曽良本の写しの本です。曽良本の見せ消ちなどの添削跡をかなりの部分そのまま写しているので、清書本ではありませんが、曽良本の最終校訂後に写された現存する唯一の本です。
01C 柿衛本 (素龍本)
(素龍による曽良本の清書)
素龍筆 柿衛本 おくのほそ道 岡田利兵衛編 新典社
柏木素龍の筆による、曽良本の清書本です。
柿衛文庫所蔵、柿衛(かきもり)は、故 岡田利兵衛氏の俳号です。
01D 西村本 (芭蕉所持本) (素龍本)
(素龍による曽良本の清書)
影印 おくのほそ道 櫻井武次郎編 双文社出版
柏木素龍の筆による曽良本の清書本です。上記の柿衛本とは別なバージョンです。題簽のみ芭蕉の筆となっています。
芭蕉が最後の旅にこの本を持って行ったので「芭蕉所持本」とも呼ばれます。
芭蕉の遺言によりこの本は、芭蕉の兄の半左衛門から去来の手に渡ります。現在は西村氏が所有しているために「西村本」と呼ばれています。
・去来はこの本を写して半左衛門に献上しています。これが「去来本」と呼ばれるものですが、贋作が数多く存在します。
02 元禄版本
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社
西村本をもとに、井筒屋庄兵衛が出版したものです。
03 明和版本
蝶夢が素龍の跋と去来の伝来文を見つけ、それを付録として元禄版に加えたものです。
本文は元禄版と同じ版木が使われています。しかし版木の摩耗が激しく、文字の欠損が数多くあります。
・明和版には、蝶夢の付録を刷らずに元の元禄版と同じ体裁で出版された、謂わば明和の元禄版と言える版が存在します。
参照:元禄Tは明和以後の版である
04 寛政版本
天明の大火によりそれまでの版木が消失し、新たに版木を作り直したようです。その際、
書肆情報や素龍の跋文や去来の跋文は明和版の被せ彫りとなっていますが、本文は元禄版の被せ彫りとなっています。
参照:
寛政版の跋文・書肆の底本
寛政版の底本は元禄版であることについて
05a 別版 (有丁)
明和版よりも刷りの状態のよい元禄版の被せ彫りとなっています。
柱に丁付けがなされています。(袋とじの表の部分に番号が振られている)
そのため「有丁本」と呼ばれることがあります。
05b 別版 (桜寿軒)
上記の別版(有丁)とは版木が異なります。
被せ彫りではなく、元禄版を参考に新たに版下を作ったのではないかと思われます。
跋文に、「・・・桜寿軒の窓下に謹て刀をことふき畢ぬ」とあるため「桜寿軒本」と呼ばれることもあります。
拓本のように白字抜きで印刷されています。
01E1 早稲田大学本(早大本)
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko31/bunko31_a0171/index.html
・鎌倉庵の記 視吾堂(吉川惟足)
・芭蕉翁みのむしの音をきゝにこよとまねかれしころ (蓑虫説) 素堂
・奥の細道 芭蕉
上記三作品が一冊に写された本です。奥付けには 寶永弐
乙酉 八月七日
(1705年9月24日)とありますが、誰が書いかの情報は見当たりません。
この本に収められていいる「奥の細道」について、当ブログで諸本と対照したところ、先の柿衛本や西村本とは異なる曽良本の特徴が見られることがわかりました。また、柿衛本や西村本よりも曽良本に忠実に書かれていることも判明しました。
訂正:当ブログでは、先にこの本を吉川惟足本としていましたが、この本には惟足の「鎌倉庵の記」が写されているというだけで、惟足とは関係ありませんでした。そこで、「早大本」と呼称を改めました。
01E2 昔安本 (東大本) (早大本の系統)
校本おくのほそ道 西村真砂子 編著 福武書店 p245-282 影印
奥付けに、伊藤氏昔安 とあることから「昔安本」と呼ばれています。また、東京大学総合図書館に所蔵されているので「東大本」とも呼ばれています。
芭蕉自筆本が発見されるまでは、曽良本と西村本との中間の本文を持ち芭蕉直筆本の写しではないかと推測されましたが、今回、当ブログで諸本と対照したところ、早大本と同じ系統であることがわかりました。
参照:奥の細諸本異同の対照表 底本と主な参考文献
09註 奥細道通解 馬場錦江 (西尾市 岩瀬文庫 15‐イ76)
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100067332/viewer/1
奥の細道の解説書です。本文部分を諸本と対照したところ、早大本や昔安本と同じ系統であることがわかりました。(早原本から何代も後の孫引の孫引きのような写しなので、代を重ねるごとに、かなり変容してしまっている部分があるようです)
2019.2.8
2019.2.17
2019.3.31
2019.4.25
2019.5.24
2020.8.4改