2018年5月24日木曜日

おくのほそ道 寛政NSは寛政版Cであることについて

先に、「おくのほそ道 底本と主な参考文献」の暫定的な注で、新潟大学所蔵の寛政NSについて次のように書きました。

寛政版B’ 新潟大の寛政NSは、雲英末雄の分類には存在しない。「諧仙堂 蔵板」であるが、洛陽蕉門書林の書肆に「井筒屋庄兵衛・橘屋治兵衛」の名のみで「浦井徳右衛門」の名前がない。雲英末雄の分類の寛政版Bと寛政版Cの過渡期的な表記になっている。(袋綴にする際に均等に折れずに「浦井徳右衛門」がノドの部分にずれこんでしまった可能性に留意)

留意部分について詳しく見てみたいと思います。

おくのほそ道 寛政版  57b(付録4b)

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版Cに対応する

寛政NS
・上の寛政Kでは「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛/浦井徳右衛門」の3つの名前が並んでいるが、下の寛政NSでは「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」の二つの名前だけで「浦井徳右衛門」の名前がない。
 こうして並べてみるとすぐに気づくのだが、「洛陽蕉門書林」という文字が、寛政Kに比べて寛政NSでは随分と左に寄っている。また、右側の柱の部分に書かれている「四」という丁付の文字だが、寛政Kでは「四」の文字が1/3くらいしか見えていないが、寛政NSでは完全に姿を表し右側に余白まである。
 以上のことから、寛政NSの「浦井徳右衛門」という文字列は、ノドの部分にずれ込んで綴じ代に入って見えなくなっているという可能性が考えられる。しかし袋綴じにしようとする際に半分に折れずにズレたという可能性は低いように思われる。これだけの折りミスならば、かなりのズレとなるので、他の丁よりも横幅が大きくなり、すぐに気づくはずである。また、製本する際に、飛び出た部分を処理しなければならなくなる。とするならば、印刷する際のミスの可能性が考えられる。更には印刷する際に故意にズラした可能性も考えられる。もっと考えるならば、「浦井徳右衛門」の部分に墨を付けず空白にした可能性も考えられる。この点についてはもう少し検証が必要となるので、今回は保留として、次に、印刷の状態について見てみたいと思う。その前に寛政NSと寛政版Bと寛政版Cの関係について見てみたい。

おくのほそ道 寛政版  57b(付録4b)

寛政GF 雲英末雄の分類では寛政版B

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版C
・寛政GFでは「寛政元酉仲秋再板」となっていいるが、寛政Kでは「寛政元酉仲秋再板」と「歳」が「年」と変えられている。寛政Kでは「諧仙堂 蔵板」という文字列が入り、「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に加えて「浦井徳右衛門」の名前が入っている。翻って寛政NSを見ると、「浦井徳右衛門」の名前がないという点は寛政GFと同じだが、それ以外では寛政Kと一致する。
・仮に寛政版NSが寛政GFと寛政Kとの中間だとすると、文字の欠損は寛政Kよりも少いはずであるが、明らかに寛政Kの方が状態がよい。一番わかりやすい場所が次の素龍の跋である。

おくのほそ道 寛政版 54a(付録01a)

寛政NS

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版C
向かって右から、「多(た)」「ミ」「村」「ま」「たり」「の」

・管見では、寛政Kのように欠損のない版は、これより先に出版された、寛政版Aに属する寛政Iと寛政版Bに属する寛政GF、それに詳細不明の寛政N2のみで、それ以下の寛政版Cに属する、寛政KS寛政M寛政R寛政W1寛政W2、寛政版C’に属する寛政N1、寛政版Dに属する寛政O、寛政版Fに属する寛政IKは全て同じ箇所に欠損がある。これらのことからこの欠損は寛政版Cの初期以降に起きたと考えられる。

 以上のことから、寛政NSは寛政版Cの初期以降に属し、「浦井徳右衛門」の欠落は製本の際の欠落の可能性と、印刷ミスでズレたか、故意にズラした可能性が考えられる。その点については改めて考えてみたいと思う。

引用文献
国会図書館デジタルコレクション 元禄T(底本)/  蕪村.巻T
国文学研究資料館 元禄K寛政K芭門七書K永機K奥の細道
駒沢大学図書館 元禄KM
相愛大学 春曙文庫 元禄SI
北海道大学図書館 明和H
宮内庁書陵部 別版S.有丁
酒田市立光丘文庫 寛政M写本M
新潟大学附属図書館 佐野文庫 寛政NS
岐阜大学図書館 寛政GF
愛知教育大学附属図書館 模写IK寛政IK
金城学院大学図書館 寛政KS
大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 寛政O
奈良大学図書館 寛政N1寛政N2
八戸市立図書館 模写HA註.HA
函館市中央図書館 香雪.交山HK
愛知県立大学図書館  明和I寛政I註.菅菰I 
立命館大学図書館 元禄R明和R寛政Rおくのほそみち 
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G1 元禄G2明和G別版G.桜寿軒
早稲田大学図書館  元禄A 元禄B 元禄C明和W寛政W1 寛政W2
別版A.有丁 別版B.有丁別版C.桜寿軒
半化坊W百家交筆W香雪.交山W永機W蕉門七書W芭蕉翁文集W 
模写A 写本W2 写本W3 写本W4  惟足W(吉川惟足)
註.洗心抄W奥の細道
西尾市岩瀬文庫 註.通解NO
弘前市立図書館 蕉門七書HR(写)
福井県文書館 模写FI
富山県立図書館 半化坊TY


著作物の引用について
 現在、国文学研究資料館と国会図書館と慶應義塾大学グーグル図書館プロジェクトでは、著作権の切れた作品の使用については特に制限していませんが、その他の公立・私立の図書館では、著作権の切れた作品であってもその使用に制限を加えています。
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 2018.5.26 更新
水音凛香・速水敬五


与謝蕪村 奥の細道 上巻
与謝蕪村 奥の細道 下巻
12-13. 14. 15. 16-17. 18.


表紙 000 
1.序章 001 002 003.03
2.旅立 003.03 004 
3.草加 005 006.05
4.室の八島 006.06 007.05
5.仏五左衛門 007.06 008 009.01
6.日光 009.02 010 011 012.03
7.那須 012.04 013 014.06
8.黒羽 014.07 015 016.07
9.雲巌寺 016.08 017 018 19.07
10.殺生石・遊行柳 19.08 020 021.02
11.白河の関 021.03 022.06
12.須賀川 022.07 023 024 025.05
13.あさか山 025.06 026.06
14.しのぶの里 026.06 027.07
15.佐藤庄司が旧跡 027.08 028 029.07
16.飯塚 029.07 030 031.08
17.笠島 031.08 032 033.03
18.武隈 033.04 034 035.01
19.宮城野 035.02 036 037.04
20.壺の碑 037.05 038 039 040.03
21.末の松山 040.04 041 042.04
22.塩竈 042.04 043 044.04
23.松島 044.05 045 046 047 048 049.05
24.石巻 049.06 050 051.07
25.平泉 051.08 052
053 054 055.01
26.尿前の関 055.02 056 057 058 059.01
27.尾花沢 059.02 060.03
28.立石寺 060.04 061
29.最上川 062