(元禄T)
奥の細道 : 素竜本 野村宗朔 編 大倉広文堂 昭和7国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1175286
先に、「底本と主な参考文献」 で、元禄Tについて次のように書きました。
追記、底本の元禄Tについてですが、 雲英末雄の分類による明和版Aよりも後に刷られた可能性が出てきました。とすると、元禄Tは素龍・去来・蝶夢の跋のない明和版であるとも言えるかもしれません。この点について見てみたいと思います。
一番顕著な例が次の箇所です。
おくのほそ道 10a.05「き事」
「事」の字について、(元禄A・K・C)(明和G・R)には欠損がありませんが、明和I以降に欠損があります。そして、元禄Tも同じ欠損があります。
明和Iは、雲英末雄の分類によると明和版Aに属するので、明和版Aを刷っている途中で
版木が欠損したと考えられます。
画像引用 元禄A 元禄K 元禄C 明和G 明和R 明和I 明和H 明和HO 明和W 元禄T
おくのほそ道 04a.03「習し」
「し」の字について、(元禄A・K・C)(明和G・R・I)には欠損がありませんが、明和版B以降に欠損があります。そして、元禄Tも同じ欠損があります。
「し」の字に関しては明和Iよりも後で版木が欠損したと考えられます。
画像引用 元禄A 元禄K 元禄C 明和G 明和R 明和I 明和H 明和HO 明和W 元禄T
おくのほそ道 41a.07「侍類(る)」
元禄Tの欠損は、明和Wとほぼ同じであると言えると思います。
注:明和Nは、明和版Bよりも「類(る)」の欠損が少ないのですが、分類途中により便宜上この位置に配置しました。
画像引用 元禄A 元禄K 元禄C 明和G 明和R 明和I 明和H 明和HO 明和N 明和W 元禄T
明和版は、本文から無署名の跋までは元禄版の版木を使用しており、付録として素龍・去来・蝶夢の跋文を加えたものです。つまり元禄Tは、この付録を刷らずに以前の元禄版と同じ体裁にしたものと言えると思います。
なぜこのような本が出たかを想像すると、明和版が世に出回ると、元禄版を求める好事家が出現し、その欲求を満たすために「元禄版」を新たに出版したのかもしれません。その際、明和版以後に刷られたということを明示したかどうか? 興味の注がれるところではあります。
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2019.2.1
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