慶應義塾図書館所蔵の「おくのほそ道 明和G」は Google Booksで公開されている。
慶應義塾図書館書誌
BIB System No.001975534
タイトル:おくのほそ道(外題) / [芭蕉著]
出版事項 :明和7跋 [1770]
統一タイトル:奥の細道
注記:刊本
この版には、素龍跋の3行目に、「伏て村肝(本ノマゝ)を刻む」とあるので、「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社」の分類によれば、明和Aに対応し明和版では一番初期の版ということになる。
54a.03 (素龍跋)「伏て村肝(本ノマゝ)を刻む」

明和G
しかし、「蛤」の句の53丁表と裏(53a, 53b)が欠落し、52丁裏の余白に無理矢理書き込まれている。次に欠落のない明和Iと欠落のある明和Gを並べてみた。
明和I (52b,53a) (53b,54a)
「蛤の/婦(ふ)たみに/わかれ行秋そ」

明和G (52b, 53a)
「蛤のふたみにわかれ行秋そ」

・「蛤」の句が52bの余白のの部分に無理矢理書き込まれている。このようになった理由は次の3つの可能性が考えられる。
1.明和版を作る時に「蛤」の句の版木が紛失していたため、52bの余白の部分に新たに「蛤」の句を彫った。その後「蛤」の句の版木が見つかり、次版からまた旧に復した。
2.刷り忘れたので「蛤」の句を52bに墨書きで書き込んだ。
3.もともとは欠落はなくきちんと刷ってあったのだが、このページが破れてしまい、この本の所有者が「蛤」の句を52bに書き込んだ。
仮に1.2.であるならば、この明和Gが、明和版の初版ということになり、明和版は5種類から1種増えて6種となる。また、寛政版では53丁部分の丁付がなされていないが、明和Gの53丁の欠落がその要因となった可能性が出てくる。さらに、奈良大の寛政N1や阪大忍頂寺の寛政Oの「蛤」の句が表表紙の見返しに置かれ、別版D(天保校正 半化坊選)ではこの句が本文の冒頭に置かれることとなったのも、明和Gの53丁の欠落がその要因となった可能性も出てくる。
以上について調べてみる価値があるように思われる。
この他、明和Gには次のような問題がある。
13丁裏(13b)「花かつみとは・・・石半土に埋て」
14丁表 (14a)「あり里の童・・・瀬の上と」
が欠落している。
また、(42丁裏,43丁表) (43丁裏,44丁裏) が二重に刷られている。
これらはGoogleでスキャンした時のミスである可能性もある。
奈良大学図書館 寛政N1
愛知県立大学図書館 明和I
Google ブックス 慶應義塾大学 明和G 後ろから表示される。
早稲田大学図書館 別版D(天保校正 半化坊選)
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社
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Google ブックスの明和Gの表示方法が変わっためリンクを直しました。
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