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2019年2月8日金曜日

奥の細道の系統図 (諸本系統図)


奥の細道の系統図 (諸本系統図)

01A 芭蕉直筆本 (野坡本)(中尾本)
芭蕉自筆奥の細道 上野 洋三 桜井 武次郎 編 岩波書店
松尾芭蕉の自筆の書とされていますが異論もあるようです。 「野坡本」とも呼ばれるのは、芭蕉の弟子の野坡がこの本を所持していたためです。更に「中尾本」とも呼ばれることもあります。それは現在、中尾氏が所持しているからです。
・壷碑(つぼのいしぶみ)の場面の本文には”貼紙”がしてあります。そしてその”貼紙の下” に「鎮守苻将軍陸奥守朝狩」との記述があります。(上記 芭蕉直筆奥の細道 本文篇 p87参照)
 多賀城碑の「藤原恵美朝臣朝獦」の「獦(狩)」の文字が解読されるのは、芭蕉が亡くなった後のことです。この観点からすると、この本は18世紀以降に作成された可能性が高いと言えます。つまり芭蕉の自筆ではない可能性が高いということになります。
多賀城碑と壷碑と日本総国風土記について 参照
松尾芭蕉の壷碑と多賀城碑について 参照

01B1 曽良本 (天理本)
天理図書館善本叢書〈和書之部 第10巻〉芭蕉紀行文集 
曽良が所持していたために、「曽良本」と呼ばれています。本文の筆者は、曽良筆説、芭蕉筆説、利牛筆説などがあります。 現在は天理大学が所蔵しているので「天理本」とも呼ばれることもあります。
・本文には、見せ消ちや書き込みなど添削の跡が随所にみられ、それらを誰が入れたのかについても諸説あるようですが、この書が「奥の細道」の決定稿であり、以後の諸本の親本となっています。

01B2 河西本 (曽良本の写し)
河西本 おくのほそ道 村松友次 笠間書院
河西氏所有の曽良本の写しの本です。曽良本の見せ消ちなどの添削跡をかなりの部分そのまま写しているので、清書本ではありませんが、曽良本の最終校訂後に写された現存する唯一の本です。

01C 柿衛本 (素龍本)
(素龍による曽良本の清書)
素龍筆 柿衛本 おくのほそ道 岡田利兵衛編 新典社
柏木素龍の筆による、曽良本の清書本です。
柿衛文庫所蔵、柿衛(かきもり)は、故 岡田利兵衛氏の俳号です。

01D 西村本  (芭蕉所持本) (素龍本)
(素龍による曽良本の清書)
影印 おくのほそ道 櫻井武次郎編 双文社出版
 柏木素龍の筆による曽良本の清書本です。上記の柿衛本とは別なバージョンです。題簽のみ芭蕉の筆となっています。
芭蕉が最後の旅にこの本を持って行ったので「芭蕉所持本」とも呼ばれます。
芭蕉の遺言によりこの本は、芭蕉の兄の半左衛門から去来の手に渡ります。現在は西村氏が所有しているために「西村本」と呼ばれています。
・去来はこの本を写して半左衛門に献上しています。これが「去来本」と呼ばれるものですが、贋作が数多く存在します。

02 元禄版本
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社
西村本をもとに、井筒屋庄兵衛が出版したものです。

03 明和版本
蝶夢が素龍の跋と去来の伝来文を見つけ、それを付録として元禄版に加えたものです。
本文は元禄版と同じ版木が使われています。しかし版木の摩耗が激しく、文字の欠損が数多くあります。
・明和版には、蝶夢の付録を刷らずに元の元禄版と同じ体裁で出版された、謂わば明和の元禄版と言える版が存在します。
参照:元禄Tは明和以後の版である

04 寛政版本
天明の大火によりそれまでの版木が消失し、新たに版木を作り直したようです。その際、
書肆情報や素龍の跋文や去来の跋文は明和版の被せ彫りとなっていますが、本文は元禄版の被せ彫りとなっています。
参照:
寛政版の跋文・書肆の底本
寛政版の底本は元禄版であることについて

05a 別版 (有丁)
明和版よりも刷りの状態のよい元禄版の被せ彫りとなっています。
柱に丁付けがなされています。(袋とじの表の部分に番号が振られている)
そのため「有丁本」と呼ばれることがあります。

05b 別版 (桜寿軒)
上記の別版(有丁)とは版木が異なります。
被せ彫りではなく、元禄版を参考に新たに版下を作ったのではないかと思われます。
跋文に、「・・・桜寿軒の窓下に謹て刀をことふき畢ぬ」とあるため「桜寿軒本」と呼ばれることもあります。
拓本のように白字抜きで印刷されています。

01E1 早稲田大学本(早大本)
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/bunko31/bunko31_a0171/index.html
・鎌倉庵の記 視吾堂(吉川惟足)
・芭蕉翁みのむしの音をきゝにこよとまねかれしころ (蓑虫説) 素堂
・奥の細道 芭蕉
上記三作品が一冊に写された本です。奥付けには 寶永弐 乙酉 八月七日 (1705924)とありますが、誰が書いかの情報は見当たりません。

この本に収められていいる「奥の細道」について、当ブログで諸本と対照したところ、先の柿衛本や西村本とは異なる曽良本の特徴が見られることがわかりました。また、柿衛本や西村本よりも曽良本に忠実に書かれていることも判明しました。 

訂正:当ブログでは、先にこの本を吉川惟足本としていましたが、この本には惟足の「鎌倉庵の記」が写されているというだけで、惟足とは関係ありませんでした。そこで、「早大本」と呼称を改めました。
参照:奥の細諸本異同の対照表

01E2 昔安本 (東大本) (早大本の系統)
校本おくのほそ道 西村真砂子 編著 福武書店 p245-282  影印
奥付けに、伊藤氏昔安 とあることから「昔安本」と呼ばれています。また、東京大学総合図書館に所蔵されているので「東大本」とも呼ばれています。
芭蕉自筆本が発見されるまでは、曽良本と西村本との中間の本文を持ち芭蕉直筆本の写しではないかと推測されましたが、今回、当ブログで諸本と対照したところ、早大本と同じ系統であることがわかりました。
参照:奥の細諸本異同の対照表 底本と主な参考文献

09註 奥細道通解 馬場錦江 (西尾市 岩瀬文庫 15‐イ76)
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100067332/viewer/1
奥の細道の解説書です。本文部分を諸本と対照したところ、早大本や昔安本と同じ系統であることがわかりました。(早原本から何代も後の孫引の孫引きのような写しなので、代を重ねるごとに、かなり変容してしまっている部分があるようです)


2019.2.8
2019.2.17 
2019.3.31
2019.4.25
2019.5.24
2020.8.4改

2018年8月7日火曜日

奥の細道 版本の寸法 寛政版篇(別版付)

奥の細道 版本の寸法 元禄版篇
奥お細道 版本の寸法 明和版篇
からの続きです。

04a寛政I/ 愛知県立大学
愛知県立大学書誌 16.7×14.2cm
定規の画像 なし
引用サイト


04b寛政GF/ 岐阜大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 17.1-17.2cm×14.6cm
引用サイト


04b寛政N2/ 奈良大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 16.7cm×14.2-14.3cm
引用サイト


04c寛政KS/ 金城学院大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 16.3×13.9-14cm
引用サイト


04c寛政K/ 国文学研究資料館[ナ3-100]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
国文学研究資料館書誌 17×14cm
定規の画像 16.7-16.8cm×14.1cm
引用サイト
・国文研の書誌と定規の画像には、縦は2mm-3mmのズレがある。横はほぼ一致する。


04c寛政M/ 酒田市立図書館

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 16.5-16.6×14.1cm
引用サイト


04c寛政R/ 立命館大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 (6+0.625+0.109375) 6.734375inches(17.1053125cm)×5.7inches(14.478cm)
引用サイト
・ 立命館の定規の基準はインチである。


04c寛政W1/ 早稲田大学[ヘ05 00917 ]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)  
早稲田大学書誌 17cm
定規の画像 17.2-17.3×14.5
引用サイト
・早稲田大学の書誌と定規の画像には、2mm-3mmのズレがある。


04c寛政W2/ 早稲田大学[文庫31 A0153]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
早稲田大学書誌 16.7×14.3cm
定規の画像 17.1-17.2×14.5-14.6
引用サイト
・早稲田大学の書誌と定規の画像には、4mm-5mmのズレがある。


04c寛政NS/ 新潟大佐野

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 15.3cm×13.9-14cm
引用サイト


04c寛政N1/ 奈良大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 16.8-16.9cm×14.1-14.2cm
引用サイト


04d寛政O/ 大阪大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
大阪大学書誌:なし
元禄版 おくのほそみち 雲英末雄 勉誠出版: 16.4糎×13.4糎
定規の画像:16.5cm×13.6-13.7
引用サイト
・勉誠社の書誌と定規の画像には、横は2mm-3mmのズレがある。縦はほぼ一致する。


04e寛政IK/ 愛知教育大学

(画像をクリックすると大きな画面が出ます) 
愛知教育大学書誌:なし
元禄版 おくのほそみち 雲英末雄 勉誠出版: 16.2糎× 14.9糎
定規の画像:16.2-16.3cm×15.2-15.4
引用サイト
・勉誠社の書誌と定規の画像には、横は3mm-5mmのズレがある。縦はほぼ一致する。


05a別版W1/ 早稲田大学[文庫31 A0154]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
早稲田大学書誌 16.6×14.2cm
定規の画像 16.9×14.5cm
引用サイト
早稲田大学の書誌と定規の画像には、3mmのズレがある。


05a別版W2/ 早稲田大学[文庫31 A0155]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます) 
早稲田大学書誌 19.5×13.8cm
定規の画像 19.8×13.8-14cm
引用サイト
・早稲田大学の書誌と定規の画像には、縦は3mmのズレがある。横はほぼ一致する。


05a別版宮内庁/ 宮内庁

(画像をクリックすると大きな画面が出ます)
書誌:なし
定規の画像 19.4-19.5×14.1cm
引用サイト


05b別版W/ 早稲田大学[文庫31 A0156]

(画像をクリックすると大きな画面が出ます) 
早稲田大学書誌 19.2×14.9cm
定規の画像 19.4-19.5cm×15-15.1cm
引用サイト
早稲田大学の書誌と定規の画像には、2mm-3mmのズレがある。


後記
今回調べたところでは、書誌情報と定規の画像には、全て2mm以上のズレがありました。画像の歪みを考慮しても、誤差の範囲を超えていると思います。
一般的には本の寸法はそれほど重要ではないのかもしれませんが、文字の欠損などを比較する場合には、本の大きさを基準に縮尺を合わせるので、本の寸法が重要になってきます。今回のデータは今後の文字の比較に役立てていきたいと思います。

著作物の引用について
 現在、国文学研究資料館と国会図書館と慶應義塾大学グーグル図書館プロジェクトでは、著作権の切れた作品の使用については特に制限していませんが、その他の公立・私立の図書館では、著作権の切れた作品であってもその使用に制限を加えています。
 そこで当ブログでは、国文研と国会図とグーグルの資料ついては制限せずに使用しますが、その他の制限をしている図書館の資料については、著作権法上の法的根拠には拠らず、著作権の切れた作品であってもその所蔵図書館に著作権があると便宜上考えることにし、これらの資料については、著作権法第三十二条の引用権を用いることにします。

2018.8.10更新
水音凛香・速水敬五

2018年7月2日月曜日

おくのほそ道 寛政版の跋文・書肆の底本について

1.寛政版の「宣伝広告・書肆名」も明和版のかぶせ彫りであることについて

現在、一般に「おくのほそ道」の寛政版は、「明和版から無署名の跋を除き、すべてをかぶせ彫りにしたもの」とされているようですが、しかし、寛政版の書肆名と宣伝広告についても、明和版からのかぶせ彫であるということについては顧慮されていないようです。

例えば、「元禄版 おくのほそ道 雲英末雄 勉誠社」の書肆名と広告についての記述は次のようになっています。
肝年書肆 跋四丁裏に「寛政元歳酉仲秋再板/洛陽蕉門書林・・・・省略」とある。なお書肆名の前に「奥細道拾遺・・・・・省略」と宣伝広告を出すのは、明和版CDと同じ形式である。p121
このように、書肆名については、明和版との類似性の言及はなく、宣伝広告についても明和版と同じ形式である。というだけで、かぶせ彫であるとは考えられていないようです。

そこでまず、書肆名と宣伝広告の明和版と寛政版との関係について見てみたいと思います。




画像引用元:明和W.54b  寛政I.57b

注:画像のフォーマットは以下の通り
明和W:横:12.7cm 換算96dpi:481pixel/縦:16.8cm 換算 96dpi:635pixel
寛政I:横:12.7cm 換算96dpi:481pixel/縦:16.7cm 換算 96dpi:631pixel
このフォーマットの比率を変えずに縮小やトリミングをしている。

・明和Wは明和版Eに属し、寛政Iは寛政版Aに属する。(版本の分類は、暫定的な注参照)
・赤の囲い部分と、青の囲いの部分を次に並べる。


左:明和W 右:寛政I
「洛陽蕉門林 井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」
・両者ともに文字の大きさも間隔もほぼ同じである。


左:明和W 右:寛政I

 奥細道拾遺  全一冊出来
 奥細道菅菰抄 全二冊出来
 同 付 録  全一冊(追ラ)出来
・両者ともに文字の大きさも間隔もほぼ同じである。
・次に明和Wの文字を透過して、寛政Iに重ねてみる。


明和Wを透過して寛政Iに重ねた合成画像

・両者はほぼ一致する。よって、寛政Iは明和版の被せ彫りであるということが言える。
明和版で、宣伝広告と洛陽蕉門林の書肆名のある版は、明和版C・D・Eであるので、この三種のうちのいずれかが、被せ彫の底本に使われたことになる。(版本の分類は、暫定的な注参照)

2.寛政版は明和版Aのかぶせ彫りではないことについて

明和B以降の素龍の跋では、「伏て村肝を刻む」の「村肝を」が空白になっているのは周知のことだが、この部分を寛政版も併せて見てみたい。



・明和版Aに属する明和I:「伏て村肝(本のマゝ)を刻む」55a.03(付録1a)
・明和版Bに属する明和H:「伏て□□□刻む」55a.03(付録1a)
・寛政版Aに属する寛政I:「伏て村肝を刻む」54a.03(付録1a)
(版本の分類は、暫定的な注参照)

画像引用元 明和I 明和H 寛政I

明和Iの「村肝を」と寛政Iの「村肝を」を比べると字体が明らかに違う。このことから、寛政版は明和版Aの被せ彫ではないということが言える。

先の「寛政版の宣伝広告と書肆名は明和版のかぶせ彫りである。」ということと合わせると、寛政版の「跋文(素龍・去来・蝶夢)及び、宣伝広告・書肆名」は、明和版C・D・Eの何れかを底本にしているという結論となる。

寛政版の本文については明和版ではなく元禄版が用いられている可能性が高い。このことについては、(寛政版の底本について参照)

参考文献
元禄版 おくのほそ道 雲英末雄編 勉誠社 元禄A
国会図書館デジタルコレクション 元禄T(底本)/  蕪村.巻T
国文学研究資料館 元禄K寛政K芭門七書K永機K奥の細道
駒沢大学図書館 元禄KM
相愛大学 春曙文庫 元禄SI
北海道大学図書館 明和H
宮内庁書陵部 別版S.有丁
酒田市立光丘文庫 寛政M写本M
新潟大学附属図書館 佐野文庫 寛政NS
岐阜大学図書館 寛政GF
愛知教育大学附属図書館 模写IK寛政IK
金城学院大学図書館 寛政KS
大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 寛政O
奈良大学図書館 寛政N1寛政N2
八戸市立図書館 模写HA註.HA
函館市中央図書館 香雪.交山HK
愛知県立大学図書館  明和I寛政I註.菅菰I 
立命館大学図書館 元禄R明和R寛政Rおくのほそみち 
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G1 元禄G2明和G別版G.桜寿軒
早稲田大学図書館  元禄A 元禄B 元禄C明和W寛政W1 寛政W2
別版A.有丁 別版B.有丁別版C.桜寿軒
半化坊W百家交筆W香雪.交山W永機W蕉門七書W芭蕉翁文集W 
模写A 写本W2 写本W3 写本W4  惟足W(吉川惟足)
註.洗心抄W奥の細道
西尾市岩瀬文庫 註.通解NO
弘前市立図書館 蕉門七書HR(写)
福井県文書館 模写FI
富山県立図書館 半化坊TY 

著作物の引用について
 現在、国文学研究資料館と国会図書館と慶應義塾大学グーグル図書館プロジェクトでは、著作権の切れた作品の使用については特に制限していませんが、その他の公立・私立の図書館では、著作権の切れた作品であってもその使用に制限を加えています。
 そこで当ブログでは、国文研と国会図とグーグルの資料ついては制限せずに使用しますが、その他の図書館の資料については、著作権法上の法的根拠には拠らず、著作権の切れた作品であってもその所蔵図書館に著作権があると便宜上考えることにし、これらの資料については、著作権法第三十二条の引用権を用いることにします。

2018.7.2
水音凛香・速水敬五

2018年5月24日木曜日

おくのほそ道 寛政NSは寛政版Cであることについて

先に、「おくのほそ道 底本と主な参考文献」の暫定的な注で、新潟大学所蔵の寛政NSについて次のように書きました。

寛政版B’ 新潟大の寛政NSは、雲英末雄の分類には存在しない。「諧仙堂 蔵板」であるが、洛陽蕉門書林の書肆に「井筒屋庄兵衛・橘屋治兵衛」の名のみで「浦井徳右衛門」の名前がない。雲英末雄の分類の寛政版Bと寛政版Cの過渡期的な表記になっている。(袋綴にする際に均等に折れずに「浦井徳右衛門」がノドの部分にずれこんでしまった可能性に留意)

留意部分について詳しく見てみたいと思います。

おくのほそ道 寛政版  57b(付録4b)

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版Cに対応する

寛政NS
・上の寛政Kでは「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛/浦井徳右衛門」の3つの名前が並んでいるが、下の寛政NSでは「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」の二つの名前だけで「浦井徳右衛門」の名前がない。
 こうして並べてみるとすぐに気づくのだが、「洛陽蕉門書林」という文字が、寛政Kに比べて寛政NSでは随分と左に寄っている。また、右側の柱の部分に書かれている「四」という丁付の文字だが、寛政Kでは「四」の文字が1/3くらいしか見えていないが、寛政NSでは完全に姿を表し右側に余白まである。
 以上のことから、寛政NSの「浦井徳右衛門」という文字列は、ノドの部分にずれ込んで綴じ代に入って見えなくなっているという可能性が考えられる。しかし袋綴じにしようとする際に半分に折れずにズレたという可能性は低いように思われる。これだけの折りミスならば、かなりのズレとなるので、他の丁よりも横幅が大きくなり、すぐに気づくはずである。また、製本する際に、飛び出た部分を処理しなければならなくなる。とするならば、印刷する際のミスの可能性が考えられる。更には印刷する際に故意にズラした可能性も考えられる。もっと考えるならば、「浦井徳右衛門」の部分に墨を付けず空白にした可能性も考えられる。この点についてはもう少し検証が必要となるので、今回は保留として、次に、印刷の状態について見てみたいと思う。その前に寛政NSと寛政版Bと寛政版Cの関係について見てみたい。

おくのほそ道 寛政版  57b(付録4b)

寛政GF 雲英末雄の分類では寛政版B

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版C
・寛政GFでは「寛政元酉仲秋再板」となっていいるが、寛政Kでは「寛政元酉仲秋再板」と「歳」が「年」と変えられている。寛政Kでは「諧仙堂 蔵板」という文字列が入り、「井筒屋庄兵衛/橘屋治兵衛」に加えて「浦井徳右衛門」の名前が入っている。翻って寛政NSを見ると、「浦井徳右衛門」の名前がないという点は寛政GFと同じだが、それ以外では寛政Kと一致する。
・仮に寛政版NSが寛政GFと寛政Kとの中間だとすると、文字の欠損は寛政Kよりも少いはずであるが、明らかに寛政Kの方が状態がよい。一番わかりやすい場所が次の素龍の跋である。

おくのほそ道 寛政版 54a(付録01a)

寛政NS

寛政K 雲英末雄の分類では寛政版C
向かって右から、「多(た)」「ミ」「村」「ま」「たり」「の」

・管見では、寛政Kのように欠損のない版は、これより先に出版された、寛政版Aに属する寛政Iと寛政版Bに属する寛政GF、それに詳細不明の寛政N2のみで、それ以下の寛政版Cに属する、寛政KS寛政M寛政R寛政W1寛政W2、寛政版C’に属する寛政N1、寛政版Dに属する寛政O、寛政版Fに属する寛政IKは全て同じ箇所に欠損がある。これらのことからこの欠損は寛政版Cの初期以降に起きたと考えられる。

 以上のことから、寛政NSは寛政版Cの初期以降に属し、「浦井徳右衛門」の欠落は製本の際の欠落の可能性と、印刷ミスでズレたか、故意にズラした可能性が考えられる。その点については改めて考えてみたいと思う。

引用文献
国会図書館デジタルコレクション 元禄T(底本)/  蕪村.巻T
国文学研究資料館 元禄K寛政K芭門七書K永機K奥の細道
駒沢大学図書館 元禄KM
相愛大学 春曙文庫 元禄SI
北海道大学図書館 明和H
宮内庁書陵部 別版S.有丁
酒田市立光丘文庫 寛政M写本M
新潟大学附属図書館 佐野文庫 寛政NS
岐阜大学図書館 寛政GF
愛知教育大学附属図書館 模写IK寛政IK
金城学院大学図書館 寛政KS
大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 寛政O
奈良大学図書館 寛政N1寛政N2
八戸市立図書館 模写HA註.HA
函館市中央図書館 香雪.交山HK
愛知県立大学図書館  明和I寛政I註.菅菰I 
立命館大学図書館 元禄R明和R寛政Rおくのほそみち 
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G1 元禄G2明和G別版G.桜寿軒
早稲田大学図書館  元禄A 元禄B 元禄C明和W寛政W1 寛政W2
別版A.有丁 別版B.有丁別版C.桜寿軒
半化坊W百家交筆W香雪.交山W永機W蕉門七書W芭蕉翁文集W 
模写A 写本W2 写本W3 写本W4  惟足W(吉川惟足)
註.洗心抄W奥の細道
西尾市岩瀬文庫 註.通解NO
弘前市立図書館 蕉門七書HR(写)
福井県文書館 模写FI
富山県立図書館 半化坊TY


著作物の引用について
 現在、国文学研究資料館と国会図書館と慶應義塾大学グーグル図書館プロジェクトでは、著作権の切れた作品の使用については特に制限していませんが、その他の公立・私立の図書館では、著作権の切れた作品であってもその使用に制限を加えています。
 そこで当ブログでは、国文研と国会図とグーグルの資料ついては制限せずに使用しますが、その他の図書館の資料については、著作権法上の法的根拠には拠らず、著作権の切れた作品であってもその所蔵図書館に著作権があると便宜上考えることにし、これらの資料については、著作権法第三十二条の引用権を用いることにします。

 2018.5.26 更新
水音凛香・速水敬五

2018年5月5日土曜日

おくのほそ道 寛政版の底本は元禄版であることについて

現在、一般に「おくのほそ道」の寛政版は、「明和版から無署名の跋を除き、すべてをかぶせ彫りにしたもの」とされているようです。しかし、明和版の本文には欠損箇所が多くあり、明和版以前のもう少し状態のよい元禄版を手本にしているのではないかと思われる箇所が見られます。
そこで、元禄版、明和版、寛政版を対比させて検討してみたいと思います。

おくのほそ道 01a.03「を」



・欠損過程を見ると、まず元禄G2・元禄Cのように上部が欠損し、更に明和Iのように欠損している。この過程を踏まえて明和Rを見てみると、明和Iと同じ欠損箇所を墨書きで修正している可能性が高いように思われる。


・明和Wは明和Iなどよりも更に欠損しているものを修正しているように思われる。


 ・寛政Iは、元禄版の「を」の欠損のない版を参照し、模写IKは元禄版の欠損のある版、あるいは、明和版を参照したように思われる。

・模写IKについて
模写IKは、国文研の書誌では「刊本」とされ、図書カードでは「明和7年本」とされているが、明和版でないのは明らかであり、刊本ではなく写本(模写)であるように見える。また手本にしている版は明和に近い版ではあるが、おそらく明和以前の元禄版を手本にしているものと思われる。このことについては、後ほと見てみたいと思う。ともかく、写本であろうが刊本であろうが、明和版に近い版を底本にしていることには違いがないので、欠損部分の修正例を見るには格好の引用資料となる。

画像引用元: 元禄A元禄G2元禄C明和I明和R明和W寛政I模写IK

おくのほそ道 04a.03「謂」

・元禄D・明和R・明和Hは欠損箇所を墨書きで修正したものと思われる。元禄D・明和Hは本の所持者の癖のためか、元禄Aとは大きく変わってしまっている。明和Rはもともと欠損部分が少なかったためか、元禄Aとほとんど変わりなく修正されている。

おくのほそ道 04a.03「謂」

・赤丸の部分を見ると、元禄T・明和G・R・Iが、他の版に比べて元禄Aに近い。 明和版は5種あるが、明和G・R・Iは、雲英末雄の分類では明和版Aに対応し明和版では最も初期の刷りである。また元禄Tも同時期のものであることがこの刷りの状態から窺える。(明和版Aは元禄Tよりも先に刷られた可能性がある)
・明和Hは雲英末雄の分類では明和版Bに対応し明和版では二番目の刷りである。明和Wは雲英末雄の分類には存在しないが、明和版では一番最後の刷りであると思われる。

・赤丸に関しては、元禄T・明和G・R・Iが特によく刷られており、明和版でもH・Wになると上段の元禄版と同程度に落ちる。

・青丸の部分を見ると、下段の版は全て、上段の元禄SI・G1と同等であり、それ以下の元禄K・C・B・R・G2よりも元禄Aに近い。
・緑丸の部分を見ると、下段の版は全て、上段の元禄SI・G1・Kと同等であり、それ以下の元禄C・B・R・G2よりも元禄Aに近い。

・「謂」の文字に関しては、元禄版よりも明和版の方が刷りの状態がよくなっている。これは、特異な例であるがその原因は分からない。

おくのほそ道 04a.03「謂」

・赤丸の部分を見ると、寛政Iの底本は、元禄T・明和G・R・I以外である可能性が高いように思える。
・青丸の部分を見ると、寛政Iは上段の元禄K・C・B・R・G2に特徴が似ているように思える。
・緑丸の部分からすると、寛政Iは上段の元禄C・Bに近いように思える。

画像引用元:元禄A元禄SI元禄G1元禄K元禄C元禄B・元禄D・元禄R元禄G2元禄T明和G明和R明和I明和H明和W寛政I模写IK

元禄D:影印 奥の細道 上野洋三編 和泉書院 p9

おくのほそ道 04a.08「萬」 

元禄A元禄C明和I寛政I模写IK
・元禄Cや明和Iでは上部の草冠の部分が完全に欠落しているので「萬」という文字であることを特定することも困難である。模写IKではそのまま「於(お)」としている。
・寛政版は「萬」の文字に欠損のない元禄版を参照したものと思われる。文脈などから「萬」と特定できたとしても、参考なしにこれほど元禄Aに近い修正を施すことは不可能であるように思われる。

おくのほそ道 05a.08「くて」

元禄A明和I明和R明和H寛政I模写IK
・明和R・明和Hの「て」は、欠損箇所を墨書きで修正したものと思われる。元禄Aと比べると明らかに違っている。
・寛政Iは元禄Aにかなり近い。元禄版の「て」の欠損のない版を参照しているものと思われる。模写IKも元禄Aに近いので元禄版を参照している可能性が高いように思われる。

おくのほそ道 06a06「山を」

・明和R・Hは、欠損箇所を墨書きで修正したものと思われる。元禄Aと比べると明らかに違っている。
・寛政Iは元禄Aにかなり近い。元禄版の「山を」の欠損のない版を参照しているものと思われる。模写Aも欠損のない版を参照しているものと思われる。模写IKも元禄版を参照している可能性が高いように思われる。

画像引用元:元禄A元禄T明和G明和R明和H寛政I模写IK模写A

おくのほそ道 07a.03「には非す」

・元禄T・明和G・Wは、青丸の部分が欠損しているが、寛政Iでは元禄Aにかなり近い修正が施されているので、この部分が多少なりとも残っている版を参照したものと思われる。模写IKは、この部分が完全に欠損した版を参照した可能性が高いように思われる。
・赤丸の部分を見ると、寛政Iと模写IKは、元禄B・Cのような欠損部分をまっすぐ繋いで修正したように見える。

画像引用元:元禄A元禄B元禄C元禄T明和G明和W寛政I模写IK模写A

おくのほそ道 07b.01「独は小姫」

・赤丸の部分について、明和R・明和Hは墨書きで修正されている可能性がある。
・黄色丸の部分について、明和Rは墨書きで修正されているものと思われる。元禄Aと比べると明らかに違っている。元禄Bも墨書きで修正された可能性がある。
・青丸の部分について、寛政Iは元禄B以上の欠損していない版を参照している可能性が高いように思われる。一方、模写Aは元禄C以下の欠損した版を参照したように思われる。

画像引用元:元禄A元禄SI元禄B元禄C元禄T明和G明和R明和H明和W寛政I模写IK模写A

おくのほそ道 08a.01「日」

・明和Rと明和Hは、欠損部分を墨書きで修正しているものと思われる。
・寛政Iは元禄B以上の版を参照しているように思われる。
・模写Aも元禄B以上の版を参照しているように思われる。

画像引用元:元禄A元禄B元禄C明和R明和H明和W寛政I模写IK模写A

国会図書館デジタルコレクション 元禄T(底本) /  蕪村
国文学研究資料館 元禄K寛政K別版K其角堂蔵版(永機)奥の細道
相愛大学 春曙文庫 元禄SI
北海道大学図書館 明和H
宮内庁書陵部 別版S 
酒田市立光丘文庫 寛政M
新潟大学附属図書館 佐野文庫 寛政NS
岐阜大学図書館 寛政GF
愛知教育大学附属図書館 書写(模写)IK 寛政IK
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大阪大学附属図書館 忍頂寺文庫 寛政O
奈良大学図書館 寛政N1 寛政N2
八戸図書館 書写HA 
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立命館大学図書館 元禄R明和R寛政Rおくのほそみち 
Google ブックス 慶應義塾大学 元禄G1 元禄G2明和G 後ろから表示される。
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芭蕉自筆奥の細道 上野 洋三 桜井 武次郎 編 岩波書店 自筆本
天理図書館善本叢書〈和書之部 第10巻〉芭蕉紀行文集 曽良本
河西本 おくのほそ道 村松友次 笠間書院 河西本
素龍筆 柿衛本 おくのほそ道 岡田利兵衛編 新典社 柿衛本
影印 おくのほそ道 櫻井武次郎編 双文社出版 西村本
校本おくのほそ道 西村真砂子 編著 福武書店 p245-282  影印  昔安本(東大本)
校本おくのほそ道 西村真砂子 編著 福武書店 p339-378  影印 土芳本
影印 奥の細道 上野洋三編 和泉書院 元禄D
天理図書館善本叢書〈和書之部 第10巻〉芭蕉紀行文集 下郷本(去来?)
鼇頭奥之細道 村松友次 笠間書院  鼇頭
新釈おくの細路 木村架空 著 中央堂 明29.9 活版A

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2018.6.10更新
水音凛香・速水敬五


与謝蕪村 奥の細道 上巻
与謝蕪村 奥の細道 下巻
12-13. 14. 15. 16-17. 18.


表紙 000 
1.序章 001 002 003.03
2.旅立 003.03 004 
3.草加 005 006.05
4.室の八島 006.06 007.05
5.仏五左衛門 007.06 008 009.01
6.日光 009.02 010 011 012.03
7.那須 012.04 013 014.06
8.黒羽 014.07 015 016.07
9.雲巌寺 016.08 017 018 19.07
10.殺生石・遊行柳 19.08 020 021.02
11.白河の関 021.03 022.06
12.須賀川 022.07 023 024 025.05
13.あさか山 025.06 026.06
14.しのぶの里 026.06 027.07
15.佐藤庄司が旧跡 027.08 028 029.07
16.飯塚 029.07 030 031.08
17.笠島 031.08 032 033.03
18.武隈 033.04 034 035.01
19.宮城野 035.02 036 037.04
20.壺の碑 037.05 038 039 040.03
21.末の松山 040.04 041 042.04
22.塩竈 042.04 043 044.04
23.松島 044.05 045 046 047 048 049.05
24.石巻 049.06 050 051.07
25.平泉 051.08 052
053 054 055.01
26.尿前の関 055.02 056 057 058 059.01
27.尾花沢 059.02 060.03
28.立石寺 060.04 061
29.最上川 062